【川崎市環境総合研究所職員コラム】ESG・SDGsに見る投資の重要性

令和2年8月17日 

事業推進課(国際展開・環境技術情報担当) 

勝亦 淳樹 

ESG投資とは

 投資といえば、企業の経済活動に伴う売上高、営業利益などの財務情報に基づき行うのが一般的ですが、2006年に国連責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)が国連主導で発足したのをきっかけに、世界でESG(Environment:環境、 Social:社会、 Governance:企業統治)の視点、すなわち、環境問題や社会問題に取り組んでいるか、企業統治の仕組みが整っているかといった視点も含めた投資が広がり始めました(図1)。特に、ここ数年で誰もが知る大企業だけではなく、中小企業にまで浸透してきたのか、定期株主総会などで、企業統治に関する議事を目にすることが増えてきています。これは、企業がESGの視点で投資を行っている株主を意識していると考えられます。

図1.PRI署名機関(オレンジ色の折れ線)などの推移

(出典:責任投資原則 国連環境計画・金融イニシアチブおよび国連グローバル・コンパクトとのパートナーシップによる投資家イニシアチブ)

ESG投資とSDGs

 前段において、ESG(環境 社会 企業統治)をご紹介しましたが、最近よく聞く『SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)』、見た目、感覚的に似ているように感じませんか?
 それもそのはず、ESGは、投資家が考える企業の望ましい姿に見合う企業を支援する投資であり、SDGsは、国際社会の全ての主体が持続可能でより良い世界とするための目標であるからです(図2)。
 実際に、ESGの項目ごとにSDGs17のゴールを分類してみると、図3のようになります。

図2.SDGsとESGの関係

(出典:年金積立金管理運用独立行政法人HP URL;https://www.gpif.go.jp/investment/esg/#c)

図3.SDGs17のゴールをESGごとに分類

2015年は環境に関する取組の転換点?

 2015年には国内外で環境に関する大きな動きがあり、この年をきっかけに世界が一体となって環境に関する取組を進める機運が高まりました。

〇2015年の環境に関する国内外の主な動き
・日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRI署名(9月)
・国連サミットにてSDGsが採択される(9月)
・第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)においてパリ協定が採択される(12月)

 こうした動きを受けて、本市においても、それまで以上に環境に関する取組を進めていく旨の意思表示をしています。

〇2015年以降の環境に関する本市の主な動き
・「水素社会の実現に向けた川崎水素戦略」の策定(2015年3月)
・市内初となる移動式水素ステーションの運用を開始(2015年11月)
・「川崎市気候変動適応策基本方針※」を策定(2016年6月)
※後年、地球温暖化対策推進基本計画として統合
・「地球温暖化対策推進基本計画」を改定(2018年3月)
・『SDGs未来都市』に選定される(2019年7月)
・令和2年第1回川崎市議会定例会における「令和2年度施政方針」の中で、市長が、CO₂排出実質ゼロを目指し2050年の脱炭素社会の実現に向けて取り組むことを表明(2020年2月)
・再エネ100宣言 RE Action アンバサダーに就任(2020年2月)
・「川崎市気候変動情報センター」を設置(2020年4月)
・「環境技術産学公民連携共同研究事業」において、脱炭素化に資する共同研究を重点課題として設定(2020年6月)

長期的かつ継続的な投資の必要性

 今後は、ESG、SDGsに示されているとおり、環境・社会問題の解決、経済成長等、国際社会をより良くするためのあらゆる取組を迅速にバランスよく進める必要があるのです。本市においても、将来到来する人口減少局面に向けて、予め対策を検討しておく必要があるでしょう。
 では、そのためには具体的にどうすれば良いのでしょうか・・・。
 企業の取組に対する市民や投資家などの目がより一層厳しくなり、その対応として企業の環境・社会問題の解決に資する研究開発や事業への投資が増え、その結果生まれた製品やサービスが世の中に広く普及(企業の売上高増加に寄与)するとともに、環境・社会問題も同時に解決されるというストーリーが望ましいでしょう。
 ただし、そのためには、1962年に米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)により提唱されたイノベーター理論、1991年に米・マーケティング・コンサルタント、ムーアによって提唱されたキャズム理論(図4)に示される通り、新しい技術(やサービス)は、一定程度認知され、普及を続け、アーリーアドプターとアーリーマジョリティの間にある深い溝(キャズム)を乗り越える必要があるのです。なお、イノベーターとは、新しい技術が世に出るとすぐに購入をするような人々(例えば、某社のスマートフォンが販売される際に、前日から店頭に並ばれるような人々)、逆に、ラガードとは、何が何でも買わないと決めている(既存、又は現在使用中の技術にこだわりが強い)人々(例えば、筆者のように、某社のスマートフォンは絶対に買わないと決めている人々)といったイメージです。

図4.イノベーター理論とキャズム理論

(出典:https://marketing-campus.jp/lecture/noyan/052.html )

 具体的な事例を出すと、今では、街中を走っている姿をよく見かけるハイブリッド自動車は、国内で20年以上前(1997年)に販売開始されました(図5)。もう少し細かく見ると、2004年頃から北米向けの台数が急増し、少し遅れて国内向けの台数も急増しています。これは、米国カリフォルニア州が1990年に施行したZEV(ゼロエミッション車)規制によるところが大きいのではないかと考えています。
 ZEV規制とは、カリフォルニア州内で一定台数以上を販売する自動車メーカーに対し、その一定比率をZEV(Zero Emission Vehicle;厳密には、排出ガスを一切出さない電気自動車、燃料電池自動車のこと。ただし、これらのみで、規制をクリアすることは難しいため、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車などを組み入れることも許容されている。)にしなければならないとするものです。
 ZEV規制へ対応可能なハイブリッド自動車の生産台数が一定程度確保され、生産台数の増加に伴う価格低減効果により、国内ハイブリッド自動車販売価格の低減につれて、その販売台数が増加したと考えられます。

図5.ハイブリッド自動車販売台数の推移

(出典:トヨタ自動車(株)HP、URL;https://global.toyota/jp/detail/14940200)

温室効果ガス2050年80%排出削減の実現に向けて

 我が国は、地球温暖化対策計画において、2050年までに80%温室効果ガス排出削減を長期的目標として掲げています¹。その達成のためには、今から真剣に取り組んでいかないと間に合いません。
 例えば、地球温暖化対策として、燃焼時に二酸化炭素が排出されないことから最も有力視されているものの一つである『水素技術』は、政府の支援の下、水素サプライチェーンの構築に向けて我が国一体となって取り組まれています。しかしながら、水素ステーションなどのインフラが高価格であったり、水素の取り扱い上の安全性の観点で既にできあがっている市街地の中に導入することが難しかったり、水素技術を推進する上での課題も生じています。そうした課題への対応として、政府では、水素・燃料電池戦略ロードマップを策定し、今後の道しるべを示すとともに、セルフ充填を可能(従来は安全上の理由から、危険物取扱者の有資格者のみが燃料電池自動車に水素を充填することとなっていましたが、一定の条件を満たせば、一般のドライバーも可能とすること)にするなどの規制緩和を実施し、水素インフラの価格低減化を目指しています。しかしながら、水素インフラに求められる部材が高価であったり、そもそも、前述した自動車のように、大量に生産されるものではなかったり(場合によっては、場所ごとに仕様が異なることもあります。)するため、価格低減が難しく、普及しにくいという話も聞かれます。こうした課題を克服するには、長期的かつ継続的な技術開発・研究部門への投資が必要です。
 また、2050年までに80%温室効果ガス排出削減というチャレンジングな目標の達成にあたっては、中央省庁、地方自治体における促進策、民間企業における取組だけでは不十分で、市民などが厳しい目を向ける、より持続可能な環境負荷の少ない行動を実践する、又は、世論の形成なども必要不可欠です。国際社会に生きるあらゆる主体の共通の目標であるSDGsやESGにある“持続可能性”の視点を持って、日常生活を行うことが重要です。

¹環境省HP(地球温暖化対策計画の閣議決定について URL; https://www.env.go.jp/press/102512.html)

最後に

 一見関係が薄いと思われる投資家という立場であっても、ESG、SDGsに関われるという事例をご紹介いたしました。本コラムをご覧いただいた方々それぞれの立場において、ESG、SDGsに関わる方法などを考えていただく契機になるのであれば、幸甚です。


  •  なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
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