令和2年9月17日
事業推進課(国際連携・研究推進担当)
澤田 光彬
インドネシアのチタルム川は、インターネットで検索すると“世界一汚い川”と冠のついた記事が多く出てきます。実際に川にはごみが投棄され、生活排水や工場排水は河川へ垂れ流されています。川崎市でも1970年代から80年代にかけて多摩川が生活排水や工場排水等によって汚染された歴史がありますが、周辺の市民・事業者・自治体の努力によって水質は回復し、今ではきれいな川にしか住まないと言われる鮎の遡上がみられるまでに回復しました。
こうした公害を克服した経験と知見を活かし、川崎市では平成29年度から昨年度までの3年間でバンドン市の廃棄物管理能力を向上させるための支援をJICA草の根技術協力事業として行ってきました。また、令和元年度からは、環境省が実施するインドネシアにおける河川水質改善のための都市間連携にも参画し、バンドン市に流れるチタルム川の支流を対象に水質改善能力向上のための支援を行っています。これらの協力は、川崎市とバンドン市の間で結ばれている「低炭素で持続可能な都市形成に向けた都市間連携に関する覚書」に基づき実施されています。
- 左画像出典:https://www.jakartashimbun.com/free/detail/39802.html
- 右画像出典:http://viva-wmaga.eek.jp/2012/07/17/10567
日本では水道の蛇口を捻れば水が出てきます。トイレを流す水でさえ品質の良い水です。旅行や仕事でインドネシアに渡航する人も多いと思いますが、滞在中は現地のホテルや空港、ショッピングモールなどで水を使う機会が出てきます。しかし、ホテルでは温水のシャワーが出ますし、ショッピングモールや空港のトイレや蛇口からは簡単に水が出ます。水質は日本のように良くはありませんが、インドネシアにおける外国人向け施設における水利用は日本のそれとほぼ変わらないため、インドネシア家庭における水の利用方法は意外と知られていないのが現状です。ではインドネシアの家庭における水事情はどうなっているのでしょうか。筆者が研究のため滞在していた東カリマンタン州サマリンダ市の家庭を例に見てみましょう。
インドネシアの家庭の洗面所は風呂とトイレが一体となっており、マンディルームと呼ばれています。マンディ(mandi)とはインドネシア語で水浴を意味し、このマンディルームがトイレ・洗面所・浴室を兼ねています。いわばユニットバスです。このマンディルームにはバスタブがあり、バスタブに水を溜めて、手桶を使って体を洗ったりトイレの水を流したりします。水が減ってきたら、蛇口から水を足しますが、水が出てくるのは深夜から早朝と時間が決まっており、常に蛇口から水が出てくるわけではありません。蛇口から出る水には泥が混ざっておりバスタブに溜めた水は濁っています。しばらくすると泥はバスタブの底に沈殿するので、上に溜まっている澄んだ水を利用します。飲み水はウォーターサーバーもしくはペットボトル、カップ入りの水を購入します。蛇口から出る水を飲む場合は十分に煮沸しなくてはいけません。水が枯渇した際はタンク車が町を回り各家庭にある水瓶やバスタブに水を供給します。このようにインドネシアの水は日本のように自由に利用できるわけではないのです。驚くべきことに、これは一般に高所得者層にある国立大学教授の家庭の事例であるということです。
- 左画像出典:https://www.ayosemarang.com/read/2020/07/10/60062/ada-5-benda-paling-kotor-di-kamar-mandi-apa-saja
- 右画像出典:https://style.tribunnews.com/2019/11/21/simak-5-langkah-efektif-dan-mudah-bersihkan-kamar-mandi-dan-toilet-agar-terbebas-dari-kuman
家庭の水の利用方法は都会のバンドンでも地方の東カリマンタン州のサマリンダでもほぼ変わりません。しかし、低所得者層の家ではより水の確保が困難であり、水道を持たない家庭も多いといいます。川の水を直接利用している場合や、濁った質の悪い水が出てくる井戸を用いている家庭、タンクに水を詰めて売っている水売りから水を購入している家庭もあるとのことです。また、個人の所有している蛇口を共有し、利用者が所有者個人に使用料を支払い、所有者が水道企業へ全使用分の料金を支払うシステムを用いているコミュニティもあるとのことです1)。
東カリマンタン州サマリンダ市では町の中心を流れるマハカム川という大河の水を源とし、その水を浄化し市内に供給しています。しかし、バンドン市の川は汚染が深刻なため、バンドン市の水源は一部の地下水や市内から離れた貯水池に限られ、供給量が逼迫していると言われています。環境総合研究所では川崎市の水質改善に関する知見やノウハウをバンドン市に提供し、バンドン市民のより良い水供給のための環境づくりに貢献しています。
バンドン市とサマリンダ市について
バンドン市
- 人口250万人、西ジャワ州都、ジャカルタ、スラバヤに次ぐインドネシア第3の都市。
- 急激な人口増加や経済発展により環境問題が深刻化している。
- 過ごしやすい気温であることからジャワのパリとも呼ばれている。
- 1955年に第1回アジア・アフリカ会議が開催されたことでも有名。
サマリンダ市
- 人口80万人、東カリマンタン州都。
- 近郊は石炭などの鉱物資源や材木に恵まれ天然資源が豊富である。
- 市の中心を流れる大河であるマハカム河はこれらの輸送経路ともなっている。
- 25年後には隣町のクタイカルナネガラ県がインドネシアの首都になる計画がある。
参考資料
1)https://www.gef.or.jp/globalnet201911/globalnet201911-5/
- なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
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