令和2年11月19日
事業推進課
深堀孝博
川崎市環境総合研究所は、公害研究所、公害監視センター、環境技術情報センターの3機関を統合して2013年に設立されましたが、研究所に対する認知度、理解度に関しては、まだまだ多くの課題があると感じています。そこで、今年で設立から8年目となる環境総合研究所が行っている業務、それらがどのように市民の皆様のお役に立っているのか、より多くの方に知っていいただく上で参考となるような本をご紹介したいと思います。
今回は、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」をご紹介します。
環境総合研究所では、市内の大気や水の分析・モニタリング等を通じて、市民の皆様が安全な環境の下で生活できるよう日々業務に励んでいます。そうした業務の一つとして、環境リスクに関する調査・研究を行っていますが、専門的な知識がないと理解できない、それゆえに自分には関係ない、と感じている方には、是非レイチェル・カーソンの「沈黙の春」を一読いただきたいと思います。
1962年に出版された「沈黙の春」の中で、作者のレイチェル・カーソンは、人間にとって有用な化学物質の無制限な使用が、食物連鎖や化学物質の生体への濃縮等を通じて生殖などに影響し、結果として人間の生活にも悪影響を及ぼすことへの強い懸念を表明しています。そして、高い殺虫効果を持ちながら人体や家畜には無害であると考えられ、当時世界的に使用されていた有機塩素系農薬などの危険性について、警鐘を鳴らすものでした。特に有機塩素系農薬の代表格であるDDTについては、これまでに化学物質としての残留性や生体影響に関する様々な調査・研究が行われ、日本国内では、1981年に制定された「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)でDDTの製造・輸入が禁止されています。また、国際的にも2001年採択のストックホルム条約において、残留性有機汚染物質(POPs)に指定され、世界的に製造・使用が制限されています。一方、長期間にわたる追跡調査の結果、2006年に世界保健機構(WHO)がマラリアなどの蚊が媒介する感染症対策として、DDTの有用性を再評価しています。
このように、化学物質のリスクを適正に評価、判断することは、「沈黙の春」が刊行されて半世紀以上が経ってなお、DDTという一化学物質を例にとっても大変困難であることが分かると思います。日本国内で使用されている化学物質だけでも、厚生労働省への届出ベースで69,301種類あり、それらを賢く安全に活用していくためには、科学的な知見に基づく危険性の把握が重要となってきます。環境総合研究所で行っている地道な調査・研究の意義を再認識させてくれる意味でも、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」は、研究所の職員の皆さんにも読んでほしい一冊です。
- なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
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