【川崎市環境総合研究所職員コラム】変わりゆくものと変わらざるもの~新しい年に思うこと~

令和3年1月1日 

環境総合研究所長 

小林 幸雄 

■はじめに

 新年明けましておめでとうございます。
 新しい年をいかがお過ごしでしょうか。
 昨年は、全国的に新型コロナウイルス感染症が流行している中、緊急事態宣言が出され、在宅勤務やリモート会議など今まで体験したことがない新しい生活社会への対応が求められ、これまでの暮らし方や働き方など、これまで当たり前と思ってきたことの見直しを迫られて、時間の経過がとても早く感じた一年であったと思います。
 コロナ一色であった昨年を踏まえ、また、今年は、環境総合研究所の前身でもある公害研究所が発足して50年を迎えることから、新しい年に思うことを述べさせていただきます。

■これまでを振り返ってみると

 市役所での勤務を始めましたのが、1992(平成4)年10月でしたので、約28年経ったことになります。薬剤師として採用されましたので、漠然と市立病院か保健所勤務と考えていましたが、環境保全局(現環境局)に配属されることを聞いた時は、どのような業務をするのか、とても不安のようなものを感じたのを昨日のように覚えています。
 そのような始まりでしたが、色々な方々の助けを受けながら、何とか、交通環境対策、土壌汚染対策などの地域環境対策、ヒートアイランド対策、温室効果ガス削減などの地球温暖化対策、環境影響評価などの業務に携わってきました。
 印象に残っていることは、担当として初めて携わった交通環境対策について、臨海部における交通環境改善を図るためには、地元企業の理解と協力が不可欠であることから、事業者一社ごとに、渋滞などの交通課題を解消するための交通需要マネジメント方策による交通流円滑化のご協力を担当者の方に、直接お願いしたことです。
 担当者の方の環境に対する考えや思いなどを聞いていく中で、人と人のつながりを感じ、何か暖かいようなものを感じていたことを思い出します。

■環境総合研究所に異動してきて

 環境総合研究所に異動してきて、羽田連絡道路工事の進捗を横目に、外の状況を見ると、50年前には、想像もできなかったきれいな空気と水が戻ってきています。これは、地元企業や市民の方々のご協力などによることはもちろんですが、関わってきた多くの先輩職員方の努力の賜物だと思っています。
 一方で、昨年の4月に研究所内に設置した、気候変動の影響や適応に関する情報収集、整理、分析等を行う気候変動情報センターが担う役割は、これから先どんどん大きくなっていくものと確信しています。
 また、二酸化硫黄などの大気環境は大幅に改善されましたが、喫緊の課題といわれる光化学オキシダントや微小粒子状物質(PM2.5)、有害化学物質などは取り組まなければならない課題が残っている状況となっています。
今年もしばらくは、新型コロナウイルス感染症の影響は避けられないと思いますが、どのような変化にも柔軟に対応して、その(調査・研究した)結果からそれを次にどう活かすか、どのように施策につなげていくのかということの判断がより一層求められていくものと思います。

■「暗黙知」の重要性について

 ここで、以前から、環境総合研究所全体の課題としていわれている科学的な伝統の継承について、本来、ものづくりの様々な現場で呼ばれる「暗黙知」を通して、環境総合研究所における「暗黙知」の重要性を考えてみたいと思います。
 「暗黙知」とは、例えば、機械の不具合が生じた時、「こういうことが起きているから、不具合になるので、ここをこうすれば、良くなる」とか、自らの経験から状態を読み取れる力を身に付けていることで、ものづくりを進める上で、非常に重要な要素となっています。
 環境総合研究所はものづくりの部署ではありませんが、「環境と共生する都市づくり」を担当する部署の一つとして、こうした暗黙知を先輩と後輩が一緒に働きながら、真の科学的理解を得るために、(後輩が)先輩から技を盗み取って、必要と感じて行ってきたと思っています。
 現在では、そうした暗黙知の存在が忘れられがちで、効率的にマニュアル化という形で伝えられますが、一方で効率化の下、マニュアル化が重視されると、精神的にも能力的にも職員が脆弱化し、結果として組織力の低下につながるのではと懸念しています。
 暗黙知を意識して、自分の頭でものを考えられる組織こそ、変化にも柔軟に対応していけるのではないかと考えています。

■おわりに

 AIなど科学技術の発達は目覚ましいものがありますし、それに対応していくことも今以上に、求められると思われます。しかし、その過程で、自分の頭でものを考え行動し、「市民の安全と安心を確保するため、さらなる環境改善と環境汚染の未然防止の調査・研究に取り組んでいく」ということは、決して変わることがないようにしていきたいと思っています。


  •  なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
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