【川崎市環境総合研究所職員コラム】地域の環境改善を目指した共同研究の推進

令和2年10月16日

都市環境課(産学公民連携担当)

安倍 悠史

産官学が連携して環境課題の解決を目指す

 近年の環境課題は、その原因物質や発生源が生活に密着して多岐にわたることや、複雑な化学反応などが関与するなど非常に多様化・複雑化しているため、原因や実態を把握し、効果的な対策を立案・実行し、成果をあげることがとても難しい場合も多くなってきています。そのため、これからの環境課題の解決に向けては、行政、企業、大学、研究機関等が幅広く連携し、各々が有する最新の知見、先進的な環境技術、ネットワーク等を活用しながら取り組むことが非常に重要になってきています。川崎市では、市が抱えている環境課題の解決を目指して広く研究実施者を募集して共同研究を行い、研究成果を川崎市に還元する「環境技術産学公民連携共同研究事業」を行っています。

共同研究事業の仕組みとこれまでの取組

 環境技術産学公民連携共同研究事業は、低炭素社会の構築、循環型社会の構築、自然共生型社会の構築、安全・安心で質の高い社会の構築の4つの研究分野における環境課題の解決に向けて、企業・大学・研究機関などの自由な発想・アイデアを活かした多彩な共同研究を募集・選定し、最長3年間の期間内で共同研究を行っています。これまでに30テーマ以上の共同研究を行っており、その成果を活かして実用化に結び付いた実績もある、優れた環境技術を有する企業や研究開発機関等が集積する川崎市ならではの取組です。当研究所も研究パートナーとして、研究経費の一部支援のほか、研究フィールドの提供、関連する市内企業や研究機関との橋渡し、分析技術・知見の提供などを通じて、共同研究を推進しています。

 また、共同研究の内容や研究成果を市民や事業者の方々に広く知っていただくため、市民向けセミナーや成果報告会を毎年度開催しています。特に市民向けセミナーでは、市民生活に関連するような身近な環境問題を取り上げ、それに関連する共同研究の内容や研究成果を発信しており、昨年度は、令和最初の夏に向けて、近年社会問題化している熱中症をテーマに取り上げました。この市民向けセミナーでは、熱中症の現状と対処方法に加えて、熱中症と関わりの深い気候変動や都市部のヒートアイランド現象に関する動向や市の取組を紹介するとともに、都市部のヒートアイランド対策のひとつである遮熱塗料の効果検証に関する共同研究報告を行いました(詳しくは下記のホームページをご覧ください)。
 今年度は、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、残念ながら対面式での市民向けセミナーは開催できていませんが、市内最大の環境分野の展示会である「川崎国際環境技術展」が初のオンライン展示会として開催され、本共同研究事業の展示ブースも設ける予定です。航空機「ボーイング787」の窓にも使われているエレクトロクロミック(EC)調光ガラスに関する開発や微生物を活用した廃プラスチックの減容化技術の開発など、今年度から新たに取り組んでいる共同研究の概要も紹介しますので、ぜひご覧ください。

気候変動への対応に向けた共同研究へシフト

 川崎市に限らず、これからの社会が最も優先して取り組むべき環境課題は、疑いなく「気候変動問題」と考えています。気候変動の影響は、遠い未来の話ではありません。昨年度は、令和元年東日本台風(台風19号)によって、市内でも浸水等による多大な被害が発生するなど、気候変動の影響は、既に私たちの生活を脅かす程に増大しており、川崎市においても対策が急務となっています。
 そこで、本共同研究事業においても、気候変動の要因とされるCO2排出を実質ゼロにする「脱炭素社会」の実現に向けた社会ニーズの高まりを踏まえ、省エネ・脱炭素化技術に関する研究・開発を積極的に推進するよう事業内容をシフトしていくことが求められています。まずは第一弾として、今年度の共同研究の公募から、脱炭素化を進める研究テーマを採択審査時に加点対象とすることによって、より積極的に募集・採択するようにしたところです。

良好な環境を未来に引き継ぐために

 気候変動問題は、市民生活や経済活動に多大な影響を及ぼす喫緊の課題であり、とりわけ産業系からのCO2排出量が市全体の7割以上を占める川崎市では、工場・事業場からのCO2排出量の削減をはじめ、様々な取組を進めているところです。一方で、川崎市は製造品出荷額等が大都市で最も高く(平成30年工業統計調査)、京浜工業地帯の中核として日本経済の発展を支えてきた産業都市でもあるため、経済活動の活性化も進めていくことが必要不可欠です。そのため、製品製造に伴うCO2排出量の削減と経済活動の活性化を両輪で進めることが重要であり、その取組のひとつとして、CO2排出量が少ない生産技術・生産工程の開発やエネルギー利用の最適化など、省エネ・脱炭素化技術の研究・開発が今後ますます重要になると考えています。
 これからも本共同研究事業を通じて、省エネ・脱炭素化技術の研究・開発を更に推進し、気候変動対策に貢献できるよう、行政、企業、大学、研究機関等が一丸となって研究・開発を進めていきたいと考えています。


  •  なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
  •  また、これまでに配信したコラムはこちらでご覧になれます。

関連するページ