令和3年3月17日
事業推進課(国際展開・環境技術情報担当)
山口 廣美
本市の公害の歴史
川崎市はかつて甚大な公害を経験したことをご存知でしょうか?当時を知る方にとっては今でも鮮明に覚えている記憶かと思いますが、はじめに本市の公害の歴史を簡潔にご紹介します。
1924年 川崎町・御幸村・大師町が合併し、川崎市は人口約5万人からスタートしました。
その後の人口増加や産業発展と併せて、川崎の臨海部では1913年に開始した埋め立てが1940年前後には水江町まで終了して製鉄、石油化学等の工場が立地し、1960年代には浮島町に石油コンビナートが形成される等、立地の良さや工場招致キャンペーンの効果などもあり、多数の工場が集積しました。
京浜工業地帯の中核として日本の高度経済成長時代(1960~1970年代)を牽引した川崎では、負の側面として急速な環境悪化を招き、大気汚染や水質汚濁等の甚大な公害が起こりました。
被害を受けた住民は苦情、請願、条例制定に向けた取組等、川崎市は全国に先駆け総量規制を盛り込んだ「川崎市公害防止条例」の公布等、事業者は有害物質を取り除く装置の設置等、市民、事業者、行政は一丸となってきれいな空や川を取り戻すために様々な取組を行い、現在の空や川を取り戻しました。
本市の知見や環境技術を活用した国際貢献
きれいな空や川を取り戻すために行った様々な取組により、本市には環境に関する知識や技術が集積しています。そのため、現在、急激な人口増加や経済発展による公害等に苦しんでいるアジア諸国に対し、本市の知見や環境技術を活用した国際貢献を実施しています。
主な取組として、次のようなものがあります。
海外からの視察・研修の受入
独立行政法人国際協力機構(JICA)等の国際機関と連携し、毎年、多くの海外視察者を受け入れ、公害克復に向けて実施してきた本市の施策や市民、事業者の取組等を紹介しています。
川崎国際エコビジネスフォーラムの開催
国連環境計画(UNEP)と連携し、市内企業や海外都市、国内外の研究者等、多様な主体による環境への取組などについての情報交換や参加都市との信頼関係の醸成を図っています。
都市間連携による国際貢献
国やJICA等の外部資金を活用し、環境課題を抱える海外都市と連携して環境課題の解決に向けた取り組みを実施しています。
中国瀋陽市との都市間連携
今回は「都市間連携による国際貢献」の中から、中国瀋陽市との都市間連携をご紹介します。
瀋陽市は中国遼寧省の省都で、工業の重要拠点であり歴史的・文化的に重要な都市です。
本市と瀋陽市は、1981年から友好都市として提携し、様々な分野で交流を重ねており、環境の分野では1997年から瀋陽市の環境技術研修生を受け入れ、両市の環境技術交流や友好関係の推進を図っています。
また、2014年度~2018年度は、環境省の「中国大気環境改善のための都市間連携事業」に両市で参画し、瀋陽市の課題である「微小粒子状物質(PM2.5)に係る共同研究」を実施しました。
PM2.5共同研究の主な取組は次のとおりです。
- 実態把握調査の実施(PM2.5のサンプリング及び成分を分析)
- 発生源寄与率の推計(実態把握調査の結果から発生源を解析し、その結果から石炭ボイラー、自動車、野焼き等の主要な発生源がどれぐらいPM2.5を発生させているかを推計)
- 瀋陽市のこれまでの政策の有効性の検証及び新たな政策の策定(推測される主要な汚染要因に効果的な対策を検討し政策へ反映)
これら取組の成果もあり、瀋陽市の大気優良日が、事業開始時(2014年)には191日でしたが、事業終了時(2018年)には285日と大幅に増加し、瀋陽市の大気環境の改善が進んだとの報告を受けています。
瀋陽市との都市間連携は、瀋陽市の環境改善へ貢献するだけでなく、越境汚染対策という日本の環境改善への貢献も期待できる事業です。環境省では、2019年度以降も「大気環境改善のための研究とモデル事業の協力」を実施しており、本市も引き続き参画し国際貢献を推進しています。
地球規模の環境改善 ~脱炭素社会の実現に向けて~
近年、数十年に一度と言われる規模の風水害が多発しており、2019年の東日本台風では、本市にも甚大な被害がもたらされ、地球環境は危機的な状況が進んでいます。この喫緊の課題に対し、世界が地球規模の環境改善への取組を進める中、本市も2050年の脱炭素社会の実現に向けて、脱炭素戦略「かわさきカーボンゼロチャレンジ2050」を策定し、取組を進めています。
しかし、アジア諸国では、現在も急激な人口増加や経済発展による大気や水質、廃棄物管理等に苦慮している都市が数多くあります。そのため、効率的・効果的に海外都市の環境改善が進むための一助となることを期待して、本市の知見や環境技術等を活用した国際貢献に取り組んでいます。
当たり前ですが、空はつながっており、地球は一つです。私たちが暮らす現在も、子供たちが暮らす未来も、ずっと先まで「環境と経済」どちらも両立した地球規模で持続可能な社会を目指し、あらゆる主体とともに取組を進めていきたいと思います。
- なお、本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、必ずしも当所の見解、意見等を示すものではありません。
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